ある噂朝、目をさましたとき、瞬間的に頭のなかが空白になる。そして、ああ、きょうはあれをやらないと、とか、きのうのことを思い出したりする。思い出すのが、いいことならいいのだが、いやな事なら、朝からため息のひとつもでてくる。 柴もおきて、昨夜のことを思い出したが、それが自分にとって、よかったのか、悪かったのか、どうにも分からなかった。 それでも、いつものようにパソコンをたちあげ、ふとんにまた、潜り込む。 携帯電話をとって日にちを確認する。 きのうから、一日過ぎている。当然といえば、そんな当然のことが、妙な安心感を柴に与えていた。ある意味で、いつもの日常に身をおくことが、どんなに平穏か。 柴は、メールをチェックする。さしたるメールはなし。銀行口座をチェックする。カード決済の日であり、おちたことをみて、ほっとする。 落ちている。 3万4320円。会社の歓送迎会の幹事をやった際、カードをつかった分の引き落としだ。 残高を見る。94万5235円。 あのスクラッチの当選金だ。思い返して、カバンを手にとる。しっかりと、宝くじがおさまっている。 給料前の柴にしてみると、珍しい金額だ。 そして、松林のことを思い出す。 また、うとうととしだす。おっと、やばい。 起き上がると、冷蔵庫からパックの牛乳を取り出し、グラスに注ぐと、口をタオルで拭い、部屋をとびだしていった。頭は寝癖がついたままだ。 それに、着替えずに寝たから、スーツもしわだらけになっている。 駅に向かう途中、コンビニのガラスに映った自分の姿をみながら、手で撫でつけるようになおした。 いつもは、あまり身なりに気をまわす柴ではないのだが、それもこれも松林の存在が大きい。 「おう、くたびれた格好してるな」 新宿駅の改札をでて、地上にでたところで、小田急からおりてきた同僚の川島に声をかけられた。 「おはよう。」 川島は、境部長が引っ張ってきた。前は、証券会社系のシンクタンクにいたと聞いた。 年齢は柴と同じだが、柴としては、さほどの能力の違いはないと思うのだが、部長の境は、川島をひいきにしている節がある。 「きょうの会議資料大丈夫なのか?」 「もちろん、あんなもん軽いもんさ。」 そのとき、一人の女性が二人を足早に追抜いていった。 松林だった。 「あれ、経理にはいった新しいやつじゃないか?」 「そうか?」 柴はとぼけた受けごたえをした。 「あの女、専務の女らしいな。」 柴は言葉を失った。 ジャンル別一覧
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